「それって、子どもにも影響があるの?」
PFAS(有機フッ素化合物)の話をしていると、そんな声をよく聞きます。
答えは—はい、むしろ子どもたちこそが、最も深刻な影響を受ける世代なのです。
今回は、母体から胎児へ、母乳から乳児へ、そして幼児・小児の成長過程の中で、どのようにPFASが体に入り込み、影響を及ぼすのかを見ていきます。
PFASは胎盤を通る—“生まれたときにはすでに体内にある”
妊娠中の母親が取り込んだPFASは、胎盤を通して胎児の体内に移行することがわかっています。
つまり、赤ちゃんは生まれた瞬間から、すでにPFASにさらされている可能性があるのです。
2000年代以降、アメリカやヨーロッパの研究では、へその緒の血液や新生児の血液からPFOS・PFOAが検出されたという報告が相次ぎました。
また、体重の小さな胎児や新生児は、大人に比べて体内濃度の影響を受けやすく、発育に重大な影響が出る可能性もあると指摘されています。
母乳にも含まれる—“善意の栄養”が危険の経路に
母乳は本来、赤ちゃんにとって最良の栄養源です。しかし近年の研究では、PFASが母乳に移行することが確認されています。
つまり、出産後もPFASは赤ちゃんに入り続けるということ。
ある調査では、母親の血中PFAS濃度が高いほど、母乳中の濃度も高くなるという相関が確認されており、特に出生直後の数か月間は注意が必要です。
これは母親のせいではなく、社会全体がPFASを野放しにしてきたツケが、無垢な子どもたちに回ってきているという構造的な問題です。
成長期の子どもは大人よりも影響を受けやすい
子どもたちは、体重に対する水・空気・食べ物の摂取量が多く、
また代謝や解毒の機能が未発達なため、有害物質の影響を受けやすい存在です。
PFASについても、以下のような影響が報告されています。
免疫系の発達阻害:ワクチンの抗体反応が弱まる、感染症にかかりやすくなる
ホルモンのかく乱:成長ホルモンや甲状腺ホルモンへの影響
発達障害の可能性:注意力、記憶、行動に関する発達への影響を指摘する研究も
特に、ワクチンの効果が低下するという研究結果は、今後の感染症リスクを高める重大な要因として注目されています。
学校や保育園、給食の現場でもPFASリスクが?
PFASは水道水だけでなく、調理器具や食器、調理油を入れる紙容器、清掃用品など、学校や保育施設にも潜んでいます。
また、工場や基地の近くの地域では、井戸水や地下水を使用した給食が汚染されている可能性も否定できません。
これまでに日本各地で、水道水や地下水から暫定目標値を超えるPFASが検出された地域では、保育園・小学校での使用水や給食の安全性に不安を抱く保護者の声が上がっています。
にもかかわらず、多くの自治体では、子ども施設向けのPFAS対策が未整備のままです。
「未来にツケを残さない」ために大人ができること
子どもは、自分でリスクを避けることができません。だからこそ、大人が守るしかないのです。
以下のような対策を、一人ひとりが意識し、広げていくことが必要です。
✅ 家庭での対策
浄水器を使って飲用・調理水を管理する(特に妊婦・乳幼児家庭)
哺乳瓶や子ども用食器にフッ素加工が使われていないか確認する
ベビーカーや防水マットなどの素材を見直す
離乳食や子ども用食品のパッケージ材にも注意を払う
✅ 地域・社会での働きかけ
自治体に対し、保育園・学校での水質検査実施を求める
子育て世代で情報を共有し、安全な製品を選ぶ動きを広げる
医師や教育関係者と連携し、リスクへの理解と対策を求める
✅ 国へのアクション
PFASを含む日用品の成分表示義務化を求める
妊婦・乳幼児への優先的な健康影響調査の実施
フッ素化学製品の規制と情報公開の法整備を後押しする
子どもたちは「社会の鏡」
PFASの問題は、私たちの暮らしの快適さや経済活動の裏側で、次の世代にどんな影響を及ぼしているかを映し出す鏡です。
“子どもは社会全体の責任”という視点に立てば、この問題を見過ごすことは、未来を見過ごすことと同じです。
いま、大人である私たちが「見て見ぬふりをしない」こと、それが、10年後、20年後の子どもたちの健康と人生に直結します。