もしあなたの体の中に、「数十年も残り続ける化学物質」が、すでに入り込んでいるとしたら。
そしてそれが、がん、不妊、免疫力低下といった問題を引き起こすかもしれないとしたら。
今回のテーマは、いよいよPFASの「健康への影響」です。
これまでの回では、“どこにあるか”“どう体に入るか”を見てきましたが、今回は、“入ってしまったあとに、体はどうなるのか?”という問題に向き合います。
PFASはただの「汚れ」ではない
よくある誤解に、「体に入っても排泄されればいいんでしょ」という考えがあります。
ところがPFASは、脂肪や肝臓、腎臓、血液中に長期間とどまり、数年〜十数年かけてようやく半分排出されるとされています。
とくに、代表的な物質であるPFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)は、
PFOS:血中半減期約5年
PFOA:血中半減期約3〜4年
という研究結果もあり、体からすぐには出ていかない“蓄積性化学物質”なのです。
科学が明かしはじめた「PFASの健康リスク」
✅ 1.がんのリスク
PFASの危険性が一気に世界に広まったのは、米国での集団訴訟がきっかけでした。
フライパン製造でPFOAを使用していたデュポン社の周辺地域では、ある種のがんの発症率が異常に高かったのです。
とくに関連が示唆されているのが:
腎臓がん
精巣がん(男性)
肝腫瘍
裁判では、被害者の血中に高濃度のPFOAが検出され、企業が因果関係を認めて和解するに至りました。
(※その実話をもとにした映画『ダーク・ウォーターズ』も公開されています)
✅ 2.不妊・妊娠への影響
PFASはホルモンをかく乱する性質(内分泌かく乱)を持つため、男女ともに生殖機能への影響が懸念されています。
女性:月経不順、早産リスク、低体重児出産
男性:精子数の減少、精子の運動能力の低下
胎児:胎盤を通してPFASが移行し、出産時にはすでに“PFAS汚染された赤ちゃん”となっているケースも…
特に妊娠中の女性が摂取したPFASが、母乳を通して乳児に移行することも報告されており、将来世代への影響が強く懸念されています。
✅ 3.免疫力の低下
PFASの影響で注目されているのが、子どもたちの免疫機能です。
ある研究では、PFAS濃度の高い子どもは、ワクチン接種後の抗体が通常より少ないという結果が出ました。
つまり、予防接種をしても効果が出にくく、感染症にかかりやすい体質になる可能性があるのです。
また、成人においても:
アレルギー反応の過敏化
自己免疫疾患(リウマチ、甲状腺疾患など)のリスク上昇
など、免疫のバランスが崩れることが示唆されています。
どこまでが「確実」なのか?—今の科学の限界
PFASは“新しい環境汚染物質”として、まだすべてが解明されているわけではありません。
しかし、今の時点でも疫学研究・動物実験の両方で共通して健康リスクが確認されているため、欧米ではすでに「予防原則に基づいた規制」が進められています。
「確実に悪いと証明されるまで待つ」のではなく、「リスクがあるなら、先に止める」—これが国際的な流れです。
日本ではまだ、「はっきりした因果関係がない」として規制が進んでいませんが、被害が出てからでは遅いのです。
どんな人がリスクを受けやすい?
PFASによる影響をとくに注意すべきなのは、以下のような人たちです:
妊婦・授乳中の女性
小さな子ども・赤ちゃん
高齢者や慢性疾患を持つ方(免疫力が低い)
工場や基地の近くに住んでいる方
井戸水や地下水を日常的に使っている家庭
こうした人たちにとって、ごく微量のPFASでも影響が出やすくなる可能性があります。
じゃあ、どうしたらいいの?
完全にPFASを避けるのは、現代社会では難しいかもしれません。
でも、次のような対策を取ることで、“取り込む量”を減らし、“体に蓄積させない生活”を送ることは可能です。
✅ リスクを減らすための行動リスト
PFASを含む製品(撥水加工品、フッ素加工フライパンなど)を避ける
浄水器(活性炭・RO膜)を使って水道水をフィルタリングする
魚介類や野菜の産地に注意する(工場・基地周辺のものは控える)
日用品の成分表示を確認する(“PTFE”“フッ素”などの記載)
地域の水質データを調べ、必要に応じて自治体に働きかける
「今、何も起きていないから大丈夫」とは限らない
PFASの怖さは、ゆっくりと、じわじわと、気づかぬうちに体をむしばむという点にあります。
今、症状が出ていなくても、10年後、20年後に「なぜこんな病気になったんだろう」と悩む人が増えるかもしれない。
だからこそ、“今、できること”を始めることが大切です。