第5回 体にどんな影響があるのか?—PFASとがん、不妊、免疫障害

健康問題
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もしあなたの体の中に、「数十年も残り続ける化学物質」が、すでに入り込んでいるとしたら。

そしてそれが、がん、不妊、免疫力低下といった問題を引き起こすかもしれないとしたら。

今回のテーマは、いよいよPFASの「健康への影響」です。

これまでの回では、“どこにあるか”“どう体に入るか”を見てきましたが、今回は、“入ってしまったあとに、体はどうなるのか?”という問題に向き合います。

 

PFASはただの「汚れ」ではない

よくある誤解に、「体に入っても排泄されればいいんでしょ」という考えがあります。

ところがPFASは、脂肪や肝臓、腎臓、血液中に長期間とどまり、数年〜十数年かけてようやく半分排出されるとされています。

とくに、代表的な物質であるPFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)は、

PFOS:血中半減期約5年
PFOA:血中半減期約3〜4年

という研究結果もあり、体からすぐには出ていかない“蓄積性化学物質”なのです。

 

科学が明かしはじめた「PFASの健康リスク」

✅ 1.がんのリスク

PFASの危険性が一気に世界に広まったのは、米国での集団訴訟がきっかけでした。

フライパン製造でPFOAを使用していたデュポン社の周辺地域では、ある種のがんの発症率が異常に高かったのです。

とくに関連が示唆されているのが:

腎臓がん
精巣がん(男性)
肝腫瘍

裁判では、被害者の血中に高濃度のPFOAが検出され、企業が因果関係を認めて和解するに至りました。

(※その実話をもとにした映画『ダーク・ウォーターズ』も公開されています)

✅ 2.不妊・妊娠への影響

PFASはホルモンをかく乱する性質(内分泌かく乱)を持つため、男女ともに生殖機能への影響が懸念されています。

女性:月経不順、早産リスク、低体重児出産
男性:精子数の減少、精子の運動能力の低下
胎児:胎盤を通してPFASが移行し、出産時にはすでに“PFAS汚染された赤ちゃん”となっているケースも…

特に妊娠中の女性が摂取したPFASが、母乳を通して乳児に移行することも報告されており、将来世代への影響が強く懸念されています。

✅ 3.免疫力の低下

PFASの影響で注目されているのが、子どもたちの免疫機能です。

ある研究では、PFAS濃度の高い子どもは、ワクチン接種後の抗体が通常より少ないという結果が出ました。

つまり、予防接種をしても効果が出にくく、感染症にかかりやすい体質になる可能性があるのです。

また、成人においても:

アレルギー反応の過敏化
自己免疫疾患(リウマチ、甲状腺疾患など)のリスク上昇

など、免疫のバランスが崩れることが示唆されています。

 

どこまでが「確実」なのか?—今の科学の限界

PFASは“新しい環境汚染物質”として、まだすべてが解明されているわけではありません。

しかし、今の時点でも疫学研究・動物実験の両方で共通して健康リスクが確認されているため、欧米ではすでに「予防原則に基づいた規制」が進められています。

「確実に悪いと証明されるまで待つ」のではなく、「リスクがあるなら、先に止める」—これが国際的な流れです。

日本ではまだ、「はっきりした因果関係がない」として規制が進んでいませんが、被害が出てからでは遅いのです。

 

どんな人がリスクを受けやすい?

PFASによる影響をとくに注意すべきなのは、以下のような人たちです:

妊婦・授乳中の女性
小さな子ども・赤ちゃん
高齢者や慢性疾患を持つ方(免疫力が低い)
工場や基地の近くに住んでいる方
井戸水や地下水を日常的に使っている家庭

こうした人たちにとって、ごく微量のPFASでも影響が出やすくなる可能性があります。

 

じゃあ、どうしたらいいの?

完全にPFASを避けるのは、現代社会では難しいかもしれません。

でも、次のような対策を取ることで、“取り込む量”を減らし、“体に蓄積させない生活”を送ることは可能です。

✅ リスクを減らすための行動リスト

PFASを含む製品(撥水加工品、フッ素加工フライパンなど)を避ける

浄水器(活性炭・RO膜)を使って水道水をフィルタリングする

魚介類や野菜の産地に注意する(工場・基地周辺のものは控える)

日用品の成分表示を確認する(“PTFE”“フッ素”などの記載)

地域の水質データを調べ、必要に応じて自治体に働きかける

 

「今、何も起きていないから大丈夫」とは限らない

PFASの怖さは、ゆっくりと、じわじわと、気づかぬうちに体をむしばむという点にあります。

今、症状が出ていなくても、10年後、20年後に「なぜこんな病気になったんだろう」と悩む人が増えるかもしれない。

だからこそ、“今、できること”を始めることが大切です。

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