農協に対する批判の中で、よく言われるのが「農家から中間マージンを取って儲けている」というものです。しかし、この見方は事実とは大きく異なります。
むしろ、農業協同組合(JA)とその全国組織であるJA全農(全国農業協同組合連合会)こそが、農家のコスト削減のために奔走してきた立役者であることは、あまり知られていません。
今回は、JA全農が農家のために行ってきた「見えない努力」と「実質的な恩恵」に光を当ててみたいと思います。
農業資材の共同購入によるコストダウン
農業に必要な肥料・農薬・飼料・機械などは、単価が高く、農家の経営を圧迫する最大の要因の一つです。
そこで全農は、全国の農家が必要とする資材を共同で購入(スケールメリットを活かした一括調達)することで、価格を引き下げ、安定供給を実現してきました。
たとえば、肥料や飼料の国際入札では、民間商社に頼らず独自の調達網を構築し、輸送コストや為替リスクを吸収しながら農家に提供しています。これは、小規模農家が個別に行えることではありません。
「見えない中間コスト」を削減してきたのは誰か?
仮に農協が存在せず、民間の商社や資材会社がすべてを仲介することになればどうなるでしょうか?
そこには営業費、人件費、マージン、株主配当といった“本当の意味での中間コスト”が加わり、結果として資材価格の上昇につながります。
一方、JA全農は協同組合であり、利益を最大化するのではなく、組合員である農家に利益を還元する仕組みを持っています。だからこそ、必要最低限のコストで供給が可能となっているのです。
民間にはできない品質と安全の見極め
JA全農は、単なる「安さ」だけでなく、品質と安全性を重視した資材選定を行っています。
ときには、農薬残留基準を上回る恐れのある資材を市場から排除したり、有機・減農薬栽培に対応するための製品を独自開発したりと、農家の信頼に応える“目利きのプロ”としての役割も果たしています。
これは、単なる利潤追求型の企業ではなし得ない「公共的な役割」と言えます。
営農指導と技術普及という隠れた支援
資材供給だけでなく、JAは地域の農業指導員を通じて、栽培方法の改善や新技術の普及にも尽力してきました。
例えば、病害虫の防除指導、収量アップの技術提案、新品種の試験栽培など、農家単独ではできない研究・実証を共有してきた歴史があります。
これにより、経営の合理化や収益改善につながる間接的なコスト削減が実現されているのです。
結論:「見えない恩恵」を知るとき
JA全農の活動は、派手な宣伝もなく、目立たないかもしれません。けれども、その“見えない恩恵”が農家の足元を支えてきたことは、数字や報道ではなかなか表れません。
逆に、もし全農がこの仕事をやめれば、誰が代わりを担えるでしょうか?
農家のコスト負担は増え、生産は不安定になり、日本の食料自給率はさらに下がることになるでしょう。
JA全農の働きを再評価することは、日本の農業の未来を真剣に考える第一歩です。