「税金は公平に集められ、公平に使われている」?
学校で教わった税金のイメージはこうです。
「みんなで少しずつ負担して、社会全体のために使うもの」
たしかに、それが本来のあるべき姿です。しかし現実の税制は、いつの間にかその“建前”から大きくずれてきました。
その背後で、ひっそりと、しかし確実に日本の税制度を変えてきた要因の一つが「天下り」です。
今回は、「天下り」と「税制」の知られざるつながりについて掘り下げます。
天下りとは何か? そして、なぜ問題なのか?
天下りとは、官僚が退職後に企業や団体に再就職する慣行のことです。
特に財務省・経産省などのエリート官庁では、次のような構図が常態化しています。
現役時代:特定の業界に便宜を図る
退職後 :その業界の団体や企業へ顧問・役員として再就職
再就職先:高額報酬・軽い業務・強い影響力
つまり、これは単なる“転職”ではなく、事実上の報酬の交換であり、政策と利権がつながるパイプラインなのです。
財務省と“大企業・団体”の間にある「静かな契約」
たとえば、財務省の高級官僚が定年退職を迎えた後に再就職する主な先は:
メガバンク(財務監督の利害関係者)
経団連加盟の大手企業(税制の主要な受益者)
金融・保険・不動産・商社系シンクタンク
財団法人、業界団体、税務系法人など
こうしたポストに就くことを前提に、官僚は現役時代に、
有利な税制優遇措置をつくる
補助金や制度の運用を“柔軟に”する
指導や検査を“適度に”する
といった形で、“恩を売っておく”わけです。
天下りが変えた税制の構図
本来、税制とは「公平・中立・簡素」が理想です。しかし、天下りが前提となると、次のような“ゆがみ”が発生します。
❶ 「減税されるのは再就職先になる企業」
→ 法人税は減税され続け、企業の内部留保は膨張
→ 一方で、消費税は上がり、庶民の負担は増加
❷ 「優遇措置は細かく、複雑になる」
→ 特定業界向けの控除、減免、特例条項が山ほど増える
→ 中小企業や個人事業主には“理解不能”な制度に
❸ 「新しい制度は元官僚の仕事場を生む」
→ 新設された助成金制度や補助事業は、元官僚が顧問を務める団体に委託されることも多い
結果として、税制が「庶民のため」ではなく、「制度をつくった人たちの“次の仕事”のため」に設計されていくのです。
「国民不在の税制」が生まれる理由
なぜ、こんな不公平が起きてしまうのか?
それは、天下りが制度の設計と運用の両方に深く食い込んでいるからです。
制度を作る人(現役官僚)が
↓
制度から利益を受ける人(元官僚)に将来なり
↓
その利益を確保するように制度を設計する
この循環構造は、一見合法でも、倫理的には極めて問題です。そして何より、税の信頼性を根本から損なっています。
これは“法のグレーゾーン”を使った静かなクーデター
かつて、税制度は国民にとって「社会の土台」でした。
しかし今では、一部の官僚と企業が、“合法的に、自分たちの利益のために税制を作り替える”構造ができあがってしまっています。
それは暴力によるクーデターではありません。制度の中で、静かに行われた「権限と利益の乗っ取り」なのです。
では、どうすればいいのか?
天下りを完全に禁止する法整備(現行法には“抜け道”あり)
税制の立案過程の透明化(審議会・会議録・ロビー活動の公開)
市民・中小企業・労働者の代表が税制決定プロセスに関与できる仕組み
何より必要なのは、私たちがこの構造に気づくことです。
「税金の無駄遣い」という言葉ではなく、「税金が“誰か”に設計されて吸い取られている」という事実に、真正面から向き合うことが求められています。