不安や緊張、焦り──現代人にとって避けがたいこれらの感情。
それらを「どうにかしよう」とすればするほど、かえって苦しさが増していく…。
そんな経験、ありませんか?
今回は、日本独自の心理療法である森田療法の視点から、「あるがままの自分を受け入れる」という考え方と、その実践法についてご紹介します。
「あるがまま」の受け入れがもたらすもの
森田療法の中心思想は、とてもシンプルです。
感情は自然なものであり、無理に変えようとしなくてよい。
この「あるがまま」を受け入れることで、以下のような変化が期待できます。
✔ 症状へのとらわれから自由になる
不安や緊張を「ダメなもの」とせず、「あって当然」と認めることで、症状に振り回されにくくなります。
✔ 感情と距離を取れるようになる
「今、不安なんだな」と気づくだけで、感情に呑み込まれずに次の行動を選べるようになります。
✔ 行動に集中できるようになる
「気分が整ってからやる」のではなく、「気分はそのままで、できることをする」。これが行動による回復の第一歩です。
✔ 自己否定がやわらぐ
「今の自分でも大丈夫」と思えることで、心が軽くなり、人間関係も変わっていきます。
「あるがまま」を受け入れるためのステップ
では、どうすれば「あるがまま」を受け入れられるようになるのでしょうか?
森田療法の考えに基づいた、日常の中で実践できるステップをご紹介します。
① 感情を評価しない・消そうとしない
感情や症状を、良い・悪いと判断せずに観察することから始めます。
これは、雷や雨といった自然現象をただ見つめるのと同じような姿勢です。
■「不安があっても、それでいい」
■「また焦ってるな、まあ自然なことか」
② 行動に焦点を当てる
森田療法では、「気分はどうであれ、できる行動をする」ことを大切にします。
■不安でも、掃除する
■緊張していても、人と話す
■気が重くても、外に出る
行動を積み重ねることで、少しずつ症状の影響力が弱まり、本来の生活が回復していきます。
③ 「今ここ」に意識を向ける
思考が未来や過去に飛びすぎると、感情も不安定になります。
「今、自分は何をしているか?」に注意を向けてみましょう。
■手元の作業に集中する
■食事や歩行などの動作を意識する
これを繰り返すことで、余計な思考に巻き込まれにくくなります。
注意したいポイント
「あるがまま」の実践には、落とし穴もあります。以下の点に注意すると、より効果的に取り組めます。
❌「うまくやろう」としすぎない
「ちゃんと受け入れられてるかな?」と考えすぎると逆効果です。
正解を求めすぎず、少しずつ慣れていくことが大切です。
❌「感情を消すため」にやらない
「不安が消えるために受け入れる」という姿勢では、かえって苦しくなります。目的は「症状をなくす」ことではなく、「それと共に生きる力を養うこと」です。
❌ 自分を責めない
不安になる自分を「ダメだ」と思ってしまいがちですが、それすら自然なこと。「また責めちゃったな」も、あるがままに認めましょう。
日常でできる小さな実践
■不安でも「とりあえず顔を洗う」
■緊張していても「声を出してみる」
■「また不安が来たな」とつぶやいてみる
こうした小さな行動の積み重ねが、心のしなやかさを育てていきます。
おわりに
「あるがままを受け入れる」とは、何かを諦めることではなく、
症状や感情に巻き込まれずに、自分の人生を主体的に生きることにつながっていきます。
森田療法は、心の病だけでなく、人生そのものに向き合うヒントをくれる、日本発の深い知恵です。