ニュースを見ていて「最近は○○の話題ばかりだな」「この問題は大ごとに違いない」と感じたことはありませんか?
その感覚の背後には、メディアが人々に「何を重要だと思わせるか」を左右する心理的な仕組みがあります。これをアジェンダ・セッティング効果(agenda-setting effect)と呼びます。
アジェンダ・セッティング効果とは
アジェンダとは「議題」「課題」を意味します。つまりアジェンダ・セッティング効果とは、メディアが繰り返し取り上げるテーマが、人々の「重要な社会問題」として認識される現象のことです。
たとえば、ある社会問題が実際にどれほど深刻であっても、メディアがほとんど報じなければ、人々の意識には上らず「存在しない問題」のように扱われます。
逆に、比較的限定的な問題でも毎日のように報道されれば、「国民全体にとって大問題だ」という印象が作られてしまうのです。
コロナ報道に見る典型例
この効果が顕著に表れたのが新型コロナウイルスの流行時です。2020年以降、連日のように「感染者数」「医療逼迫」「変異株」がトップニュースで報じられました。
もちろん感染症対策は重要ですが、その間に他の病気による死亡や自殺者数、経済的困窮などの問題は相対的に小さく扱われ、人々の意識から遠のいていきました。
その結果、世論調査で「最も重要な政策課題は何か」と問えば、多くの人が「コロナ対策」と答えるようになりました。
つまり「最重要課題である」という認識そのものが、報道の量によって作られていたのです。
政治とメディアの関係
アジェンダ・セッティング効果は政治にも大きな影響を与えます。政府や与党が自分たちに都合の悪い問題をできるだけ小さく扱い、逆に得点になる政策や話題を大きく取り上げてもらうことで、世論を操作することが可能になるからです。
例えば選挙前になると、景気回復策や給付金の話題が大きく報じられる一方で、増税や汚職の問題が目立たなくなるケースがあります。
これは報道機関が意識的・無意識的に「どのアジェンダを国民に考えさせるか」を調整しているとも言えます。
私たちの生活への影響
アジェンダ・セッティング効果は政治や経済にとどまらず、日常生活の中にも浸透しています。
たとえば「高齢者による交通事故」が繰り返し報じられると、実際には全交通事故の一部にすぎなくても「高齢者の運転=危険」というイメージが広がります。
また、芸能人の不倫やスキャンダルが大きく取り上げられると、国民全体の注目がそこに集中し、社会的により重要な問題(教育格差、環境問題など)が後景に追いやられてしまいます。
対抗するにはどうすればいいか
それでは、私たちはどうすればアジェンダ・セッティング効果に流されずに済むのでしょうか?
複数の情報源を比較する
国内の新聞やテレビだけでなく、海外メディアや独立系ジャーナリズムもチェックすると、何が過大に報じられ、何が無視されているのかが見えてきます。
「報じられていないこと」に注目する
「なぜこのテーマは大きく扱われていないのか?」と考える癖をつけると、情報の偏りに気づきやすくなります。
一次情報に触れる
統計、議事録、公式発表など、報道の元になった資料を確認することで、自分の判断軸を持つことができます。
タイミングを考える
「なぜ今このニュースなのか?」という視点を持つと、政治的・経済的な意図が見えてくることもあります。
まとめ
アジェンダ・セッティング効果とは、メディアが「何を考えるか」ではなく「何について考えるか」を操作する力です。
この効果を知っているだけで、報道に対して一歩引いた冷静な視点を持つことができます。
ニュースは現実をそのまま映す鏡ではなく、「どの現実を強調するか」を決めるフィルターでもある。そう理解して情報に向き合うことで、私たちは偏向報道に惑わされない強いリテラシーを身につけられるのです。

