「セール価格、通常1万円の品が特価2980円!」という広告を見ると、つい「安い!」と思ってしまう。
あるいはニュースで「与党の支持率は50%」と最初に聞くと、その数字が頭に残り、後から別の調査で40%と聞いても「まだ高い」と感じてしまう。
これらはすべてアンカリング効果(anchoring effect)の影響です。
アンカリング効果とは
アンカリング効果とは、最初に提示された情報(アンカー=いかり)が基準となり、その後の判断や評価が引きずられる心理現象です。
人は本来、合理的に複数の情報を比較して判断すべきところを、最初に示された数値や印象を拠り所にしてしまうのです。
そのため、後から出てくる情報を正しく評価できず、最初の数字に縛られたまま判断を下してしまいます。
報道におけるアンカリングの実例
アンカリング効果はニュースや報道に頻繁に登場します。
世論調査
選挙前に「与党優勢」「野党伸び悩み」と報じられると、投票者の意識に影響します。最初に聞いた数字が基準となり、後から異なる調査結果が出ても「でもやっぱり…」と印象を修正しにくくなります。
災害報道
地震や台風で「死者数10名」と速報が出ると、その数字が頭に残ります。後に数十人規模に増えても、最初の数字が基準となり「思ったより多い/少ない」と比較してしまいます。
経済報道
「GDP成長率予測は3%」と先に聞くと、実際が1.5%だった場合「予測より悪い」という印象を強く持ちます。しかし1.5%自体が良いか悪いかの客観的判断は二の次になってしまうのです。
ビジネスや日常でのアンカリング
この効果は日常の買い物や交渉でも活用されています。
値札トリック
「通常価格1万円」と書いたうえで「特価2980円」と表示すると、実際の原価が2000円であっても「安い」と錯覚します。
給与交渉
最初に提示された金額がアンカーとなり、後の交渉がその範囲内に収まりやすくなります。
不動産
物件の「希望価格」が高く設定されると、買い手はその数字を基準に判断し、実際には相場より高い金額で購入してしまうことがあります。
なぜ人はアンカーに縛られるのか
人間の脳は、未知の情報を評価する際に「手がかり」を必要とします。
最初に提示された数字や情報は強烈な手がかりとなり、それが基準(アンカー)として固定されてしまうのです。
特に数値のように客観的に見える情報は信じやすく、その後の判断を無意識に支配してしまいます。
アンカリング効果に対抗する方法
報道や広告に惑わされないためには、次のような工夫が有効です。
最初の数字を疑う
「この数値は誰が、どんな立場から提示したものか?」と自問する。
複数の基準を持つ
一つの調査や予測に頼らず、異なる調査結果や他国の事例と比較する。
ゼロベースで考える
「もし最初の情報がなかったらどう判断するか?」と想像することで、アンカーの呪縛を弱められます。
時間をおいて考える
速報やセール広告に飛びつかず、冷静に情報を整理してから判断する習慣を持ちましょう。
まとめ
アンカリング効果とは、最初に提示された数字や情報が基準となり、その後の判断を大きく左右する心理現象です。報道、政治、経済、買い物に至るまで、私たちは日常的にこの罠にさらされています。
「最初の情報は中立ではなく、誰かの都合で提示された可能性がある」と自覚すること。それがアンカリング効果に惑わされない第一歩です。
冷静に複数の基準を持ち、ゼロベースで考える姿勢を大切にすれば、私たちはより正確に情報を読み解くことができるでしょう。

