PFAS(有機フッ素化合物)の有害性が少しずつ社会に知られるようになり、「ノンフッ素」や「PFASフリー」をうたう製品も増えてきました。
「やっと安全な商品が出てきた」
「フッ素さえ使っていなければ大丈夫」
そんな安心感が広がる一方で、私たちはもう一つのリスクを見落としているかもしれません。
それは、“代替PFAS”や“別名のフッ素化合物”が使われている可能性です。
今回は、”フリー表示”の裏側にある落とし穴についてお話しします。
ノンフッ素とは“PFOSやPFOAを使っていない”という意味?
PFASには何千種類もの化合物があり、その中で特に規制が強まっているのは、以下の2種類です。
PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)
PFOA(ペルフルオロオクタン酸)
これらは長鎖型(C8)と呼ばれ、体内に長く残留することで知られています。
日本でもこの2つは“優先的に規制すべき物質”として扱われており、企業も「PFOS・PFOAフリー」や「ノンC8」といった表示を行うようになってきました。
しかし、これは“PFAS全体を使っていない”ことを意味しているわけではないのです。
“ノンC8”の代わりに使われている新たなPFAS
PFOSやPFOAに代わる物質として、現在広く使われているのが「短鎖型PFAS」や「フッ素化ポリマー」「フッ素界面活性剤」です。
代表的なものには以下のような物質があります:
GenX(ヘキサフルオロプロピレンオキシド誘導体)
ADONA(アミド系フッ素化合物)
PFHxA(ペルフルオロヘキサン酸)
PFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸)
これらは「C6」や「C4」といった短い炭素鎖を持ち、従来のPFASより残留性が低いとされているため、“代替PFAS”として使われています。
しかし――
欧州化学機関(ECHA)やアメリカの環境保護庁(EPA)は、これらの新しいPFASにも同様の毒性や蓄積性の懸念があると指摘しています。
また、一部の代替PFASは、従来のものよりも水中に拡散しやすく、除去が困難という報告もあるのです。
フリー表示の曖昧さ—誰が何を保証しているのか?
「PFASフリー」「ノンフッ素」「有害物質不使用」といった表示は、消費者に安心感を与えます。
しかし、その表示に法的な定義や統一基準があるわけではありません。
つまり:
PFOSやPFOAを使っていなければ「PFASフリー」と表示できる
代替PFASの使用について記載義務はない
表示そのものが企業の“自主判断”に任されている
この現状では、消費者は実質的に“信じるしかない”状況に置かれているのです。
安全のために私たちにできること
それでは、どのようにすれば“本当に安全な選択”ができるのでしょうか?
完全な見分け方は難しくとも、以下の点を意識することが重要です。
✅ フッ素化合物全体を避ける視点をもつ
単に「PFOS・PFOAフリー」かどうかではなく、全てのフッ素系成分の使用有無に着目する必要があります。
製品成分に「fluoro」や「PTFE」「GenX」などの表記があるか確認しましょう。
✅ 企業の対応姿勢を確認する
透明性の高い企業は、公式サイトでPFAS全般の使用有無を明記しています。
環境団体の調査で“グリーンブランド”として評価されているかも目安になります。
✅ 検査済み・第三者認証をチェックする
一部の環境NGOや欧州の認証機関では、「PFAS完全不使用」を証明するラベル制度を導入しています。
日本ではまだ普及していませんが、今後注目される分野です。
企業に“代替品”の透明性を求める時代へ
PFASをやめたと言いつつ、その代わりに別のPFASを使う。
これでは問題のすり替えにすぎません。
いま必要なのは、「代替品だから安全」という発想そのものを見直すことです。
そして、企業には単なる“使用の有無”だけでなく、「なぜそれを使い、どんな影響があるのか」を説明する責任があるはずです。
私たち消費者もまた、「より高い安全性を求める目」をもつことが、企業の姿勢を変える力になります。