ベテランバイアス―経験がもたらす「思い込み」の落とし穴

情報判断力
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長年の経験は尊い。しかし、その経験が時に「新しい知識を拒む壁」となり、判断を誤らせることがあります。

この心理的な偏りをベテランバイアス(Veteran Bias)と呼びます。

経験豊富な人ほど過去の成功体験に縛られ、変化を軽視する。その結果、組織も個人も気づかぬうちに時代の流れから取り残されてしまうのです。

 

ベテランバイアスとは何か

ベテランバイアスとは、自分の経験や実績を過信し、新しい情報や他者の意見を軽視してしまう心理的傾向を指します。

「昔からこのやり方でうまくやってきた」「若い人にはまだわからない」という考えにとらわれ、過去の“成功の型”を絶対視してしまうのです。

このバイアスは年齢や職種に限らず、一定の成果を上げた人なら誰でも陥る可能性があります。

 

経験が知恵を妨げるとき

経験は本来、知恵の源です。しかしそれが「自分のやり方こそ正しい」という思い込みに変わると、逆に視野を狭めてしまいます。

たとえば、

企業の経営者が、「景気は必ず循環する」と過去のパターンだけに頼り、時代の構造変化(デジタル化・グローバル化・価値観の多様化)を見誤る。

あるいはベテラン技術者が、「自分たちの世代が築いた方法こそ最高」と信じ込み、新しい技術を導入しようとしない。

こうした例はあらゆる組織に見られます。

 

組織が硬直化するメカニズム

ベテランバイアスが蔓延すると組織は急速に硬直化します。

若手が意見を言えなくなる
ベテランが「そんなことは昔やった」「無理に決まっている」と否定することで、若手の挑戦意欲が失われる。

同質性の強化
似たような経験を持つ人同士で判断するため、多様な発想が排除される。

変化への対応遅れ
「今まで通りで大丈夫」という心理が働き、外部環境の変化に鈍感になる。

結果として、過去の成功体験が未来の失敗原因になるという皮肉な構図が生まれます。

 

ベテランバイアスの背景にある心理

なぜ経験豊富な人ほどこの罠に陥るのでしょうか? 理由は大きく三つあります。

自己効力感の防衛
長年積み上げてきた自信を否定されるのが怖い。だから新しい価値観を拒絶してしまう。

損失回避の心理
新しい方法に挑戦して失敗するより、現状維持のほうが“損をしない”と感じてしまう。

地位と立場の維持
ベテランほど周囲から「頼られる自分」でありたい。新しい知識を受け入れることは、その地位の揺らぎを意味するため、無意識に排除してしまう。

 

若手にも潜む“逆のベテランバイアス”

実はこのバイアスは、ベテラン側だけの問題ではありません。

若手にも「年配者の意見は古い」「自分の方が時代をわかっている」という思い込みが生まれることがあります。つまり、世代間の相互バイアスが生まれるのです。

この状態が続くと、組織は分断され、世代の知恵が共有されなくなります。

 

対策―経験を“更新する”意識を持つ

ベテランバイアスを克服するには、「経験を積む」だけでなく「経験を問い直す」姿勢が必要です。

学び直し(リスキリング)を習慣化する
どんな専門家でも、時代の変化に応じて知識をアップデートし続ける必要があります。

若手の発想を尊重する
「昔の自分ならどう感じたか」と想像し、若手の意見をまず聞く姿勢を持つ。

失敗から学ぶ文化をつくる
「間違ってはいけない」という空気をなくし、誰でも試行錯誤できる環境を整える。

経験を共有資産にする
個人の成功体験として閉じず、他者と共有し、次世代が活かせる形に変換する。

まとめ

ベテランバイアスとは、経験という財産が思考停止を生む paradox(逆説)です。

過去の成功が現在の足かせにならないためには、「経験を誇る」のではなく「経験を再定義する」ことが求められます。

真のベテランとは、過去に縛られず、常に新しい学びに心を開いている人のこと。

年齢やキャリアに関係なく、誰もが「昨日までの自分に挑戦するベテラン」でありたいものです。

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