保守主義・反動主義・新反動主義・オルタナ右翼―4つの思想を整理する

時事問題
この記事は約4分で読めます。

 

はじめに

近年、インターネットやニュースの中で「保守」「右翼」「オルタナ右翼」「新反動主義」といった言葉が飛び交うようになりました。

しかし、これらの言葉はしばしば混同され、曖昧に使われています。果たして「保守」と「反動」は同じものなのか?「新反動主義」とは一体どのような思想なのか?そして「オルタナ右翼」との違いは何か?

本記事では、保守主義・反動主義・新反動主義・オルタナ右翼の4つを取り上げ、それぞれの特徴と相互の違いを整理してみたいと思います。

 

保守主義とは何か

保守主義は18〜19世紀のヨーロッパで形成された思想です。代表的な思想家はイギリスの政治家エドマンド・バーク。

彼はフランス革命の急激な変化に反発し、「社会は急進的な実験ではなく、歴史と伝統に根ざした漸進的改良によって前進すべきだ」と説きました。

保守主義の特徴は以下の通りです。

伝統や秩序を重視し、宗教や共同体の価値を守る。
社会の安定を優先し、急激な改革より漸進的な改善を良しとする。
民主主義は基本的に受け入れるが、過激な平等主義や急進的改革には慎重。

つまり、保守主義とは「現状をただ守る」だけでなく、「歴史と慣習を尊重しつつ漸進的に改良していく」姿勢なのです。

 

反動主義(Reactionary)とは

反動主義は「保守」としばしば混同されますが、実は大きな違いがあります。

反動主義とは、社会の進歩や改革に対して『反動』し、過去の体制に戻ろうとする立場です。例えば、フランス革命後にブルボン王朝の復古を支持した勢力は典型的な反動主義者といえます。

違いを整理すると次の通りです。

保守主義=今ある秩序を守りつつ漸進的に改良。
反動主義=過去の王政や権威主義体制への回帰を志向。

保守が「緩やかな前進」を重んじるのに対し、反動は「後退してでも旧体制に戻る」ことを望むわけです。

そのため反動主義はしばしば権威主義・独裁主義と結びつきやすい傾向を持っています。

 

新反動主義(Neoreaction, NRx)とは

2000年代に入り、アメリカのインターネット論壇から「新反動主義(Neoreaction)」と呼ばれる思想が登場しました。中心人物はソフトウェア開発者カーティス・ヤーヴィン(筆名 Mencius Moldbug)。

新反動主義は、古典的な反動主義を現代に再解釈したものであり、次のような特徴を持っています。

民主主義の全面否定
民主主義は「無能な多数による統治」であり、国家を腐敗させるシステムだとみなす。

君主制・企業統治の理想化
国家は株式会社のように統治されるべきであり、君主(CEO)が効率的に運営すべきだと考える。

平等主義批判
人間や文化の差を「自然なもの」と捉え、平等を求めること自体を幻想だとする。

「カテドラル」批判
メディア・学界・政府が一体となって進歩主義的イデオロギーを広める構造を「カテドラル」と呼び、その支配を告発する。

つまり新反動主義は、反動主義的な「権威への回帰」をインターネット時代に理論化した思想と言えます。

保守主義が民主主義の枠内で秩序を守ろうとするのに対し、新反動主義は民主主義そのものを排除しようとする点で大きく異なります。

 

オルタナ右翼(Alt-right)とは

2010年代になると、アメリカでは「オルタナ右翼(Alt-right)」と呼ばれる新しい右翼運動が広まりました。代表的な人物はリチャード・スペンサー。

オルタナ右翼の特徴は次の通りです。

白人ナショナリズムを前面に出し、移民や多文化主義に強く反発。
フェミニズムやLGBT運動などリベラル的価値観を「脅威」と見なす。
インターネット文化(ミームやSNS)を駆使して支持を広げ、大衆運動としての性格を持つ。
民主主義を完全に否定はしないが、利用しつつリベラル的価値観に対抗。

特に2016年のドナルド・トランプ大統領選挙を支持した若年層を中心に、社会的影響を持ったことで注目を浴びました。

 

おわりに

「保守」「反動」「新反動」「オルタナ右翼」という言葉は似ているようで、それぞれ異なる思想的背景と文脈を持っています。

保守主義=伝統と秩序を重んじ、漸進的に改良する主流派思想。
反動主義=過去の体制に戻ろうとする急進的な回帰思想。
新反動主義=民主主義を全面否定し、エリートによる権威的統治を理想化する現代的理論。
オルタナ右翼=ネット文化とポピュリズムを武器に拡散した大衆運動。

これらを整理して理解することで、現代政治の中で使われる「右派」や「保守」という言葉の多様性、そしてその背後にある思想的な違いがよりクリアに見えてくるのではないでしょうか。

タイトルとURLをコピーしました