ニュースで、SNSで、あるいは日常会話で、最初は「そんなわけない」と思ったのに、同じ情報を何度も聞かされるうちに、だんだん本当のように思えてしまった経験はありませんか?
その現象を、心理学では イリュージョン・オブ・トゥルース効果(Illusion of Truth Effect) と呼びます。
イリュージョン・オブ・トゥルース効果とは
イリュージョン・オブ・トゥルース効果とは、繰り返し聞いた情報ほど、真実だと感じてしまう心理現象のことです。
この効果は1977年、心理学者ハスティーとパークによって初めて実験的に確認されました。
被験者たちに「本当の情報」と「嘘の情報」を混ぜて提示し、数週間後に再度評価させたところ――
▶ 以前に聞いたことのある“嘘の情報”を、真実だと信じる人が圧倒的に多かった。
理由は、「内容が正しいから」ではなく、脳は“見た回数 / 聞いた回数”を「信頼の証拠」と誤認するから。
つまり、情報が正しいかどうかは関係ありません。ただ 「慣れた」 というだけで、人は信じてしまうのです。
なぜ人は「繰り返し」に弱いのか?
理由は脳の処理の仕方にあります。
1. 認知の省エネ(処理流暢性)
脳は、「理解しやすいもの」=「正しい」と勘違いします。繰り返し聞くと処理が速くなるため、
→ “理解しやすい=真実っぽい”という誤作動が起こる。
2. 危険回避の本能
未知のものより、見慣れたものを安全だと感じる本能がある(生存戦略)。
3. 記憶と事実を混同する癖
記憶に残っている情報ほど、「それが事実である」と錯覚する。
日常に潜むイリュージョン・オブ・トゥルース効果
● SNSの拡散
「〇〇は危険らしい」「政治家××が裏金を…」
根拠があろうがなかろうが、何度も見れば信じやすくなる。
● 偏向報道
テレビが同じフレーズを繰り返すと、視聴者の脳に刷り込まれる。
「専門家はこう述べています」
「国民の多くがそう考えています」
頻繁に聞かされることで、疑いより“慣れ”が勝ってしまう。
● マーケティング
広告の目的は “認知を取ること” です。
企業が大量に広告を出すのは「知名度=信頼」だから。
● 人間関係の噂
噂は「真実かどうか」より、「どれだけ広まったか」で信じられる。
イリュージョン・オブ・トゥルース効果の危険性
嘘が真実に置き換えられてしまう
間違った政治判断、社会的な分断を生む
偏見や差別が正当化される
特に現代は、情報の繰り返しが容易な時代です。
SNSのリツイート
テレビの同じ言い回し
YouTube の AI 音声ニュース
「回数」と「真実」は無関係なのに、人は、繰り返される情報を「真実」と誤認してしまうのです。
どうすれば騙されないのか?
1. 情報源を確認する
「誰が言っているか?」ではなく、「何を根拠に言っているか?」
2. 言葉ではなく、データを見る
統計はある?
出どころは?
反対のデータは?
3. 一度聞いた情報は“保留する”
「聞いたことがある」=「真実」ではない。
4. 反対意見も見に行く(選択的露出の克服)
「反対側のメディア」「違う立場の論者」をあえて見る。
5. 繰り返し刷り込む情報に警戒する
同じ表現が何度も出てくる
感情を刺激する言葉が出てくる
まとめ
イリュージョン・オブ・トゥルース効果とは、繰り返された情報を、真実だと錯覚する心理現象である。
現代社会では、SNS・広告・偏向報道・政治キャンペーンにこの心理が悪用されている。
真実かどうかより、回数が勝つ。だからこそ、私たちは「聞いた回数」に騙されず、情報源に立ち返る習慣、反対側を見る勇気が必要です。
たったこれだけで、私たちは「嘘を信じる脳」から「真実を見抜く脳」へ変わり始めます。

