内部留保と実質賃金の分かれ道—利益はどこへ行った?

時事問題
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働いても豊かにならない時代?

かつての日本は、「働けば生活が良くなる」「企業が儲かれば従業員にも還元される」という、ある種の“信頼関係”が成立していました。

しかし今、多くの人がこう感じています。

「給料が上がらない」
「企業は儲かっているのに、自分たちの生活は苦しい」
「物価だけが上がり、実質的な生活水準は下がっている」

では、その“利益”は一体どこに行ったのでしょうか?

その答えの鍵が「内部留保」と「実質賃金」という2つの指標にあります。

 

内部留保とは何か?それは企業の「使われない利益」

「内部留保」とは、企業が稼いだ利益のうち、

株主への配当にも
従業員への賃上げにも
設備投資にも使われず

企業内に蓄積されたお金のことです。

これは帳簿上では「利益剰余金」や「現金・預金・有価証券」として残り、企業の“使える余力”とされます。

 

データで見る日本企業の内部留保の膨張

1980年代後半:100兆円台
1990年代後半:200兆円を突破
2010年代中盤:300兆円超
2020年代初頭:500兆円超

特に1990年代後半〜2000年代以降、「法人税の引き下げ」や「非正規雇用の増加」などが進む中、企業はコストを抑えて利益を蓄積し続けてきました。

そしてこの間、従業員の実質賃金はほぼ横ばいか、むしろ低下傾向にあります。

 

実質賃金が上がらないのは「企業努力不足」ではない

日本企業の売上高や営業利益率は、実は世界水準から見ても悪くないのです。それなのに、なぜ従業員に還元されないのか?

それは、利益の「再分配」の仕組みが壊れているからです。

税制や会計制度の構造上、以下のような動機が生まれてしまうのです。

赤字の恐れを避けるために、なるべく「留保」しておく
配当はしても、賃金には反映させにくい(人件費は固定コスト)
株主還元が優先され、従業員は“コスト”として処理される

つまり、「稼いだお金が“回らない”仕組み」が制度によって作られているのです。

 

「法人税減税と消費税増税」という政策が背中を押した

1990年代以降、日本では一貫して「法人税の引き下げ」と「消費税の引き上げ」が並行して行われてきました。

 年度 法人税率 消費税率
1989年 約40% 3%(導入)
1999年 約30% 5%
2014年 約25% 8%
2019年 約23% 10%

この結果どうなったか?

企業は支払う税金が減り、利益を留保する余力が増加
一方で、消費税で庶民の実質可処分所得は減少
家計消費が伸び悩むため、企業も賃上げに慎重

こうして、「企業は利益が増えても、従業員は報われない」構造が加速しました。

 

利益が“誰にも渡らず”積み上がることのリスク

内部留保は、企業が倒産しないための“安全弁”として必要だという意見もあります。

たしかにそれも一理ありますが、過剰な蓄積は以下のような問題を引き起こします。

社会全体へのお金の循環が止まる(デフレ傾向)
投資やイノベーションが進まない(日本企業の競争力低下)
若年層が未来に希望を持てなくなる(消費と出産の停滞)
一部の大企業にだけ富が偏在し、中小企業・個人が疲弊する

つまり、「使われない利益」は、社会にとっては“死んだお金”なのです。

 

国民が問うべきは、「分配の構造」

この問題は、企業のモラルだけでは解決できません。根底には、次のような政策と制度の問題があるからです。

なぜ法人税は減らし、消費税を上げるのか?
なぜ賃上げよりも株主配当が優先されるのか?
なぜ“働く人の報酬”よりも、“使われない利益”が重視されるのか?

この“分配のゆがみ”にメスを入れなければ、いくらGDPが成長しても、庶民の暮らしは一向に楽にならないのです。

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