2017年、南米原産の強毒アリ「ヒアリ(Solenopsis invicta)」が日本に初めて上陸したというニュースが全国を駆け巡りました。
最初の発見は兵庫県・神戸港のコンテナ内で、その後も東京、横浜、大阪など、主要な港湾地域で相次いで発見され、大きな懸念を呼び起こしました。
ヒアリはその攻撃性と毒性の強さから「殺人アリ」とも呼ばれ、刺されると火傷のような痛みや、重篤な場合にはアナフィラキシーショックを引き起こすこともあります。
さらに農業やインフラ設備にも被害を及ぼすことから、海外では深刻な外来種問題として知られてきました。
ところが、それから7年以上が経過した今、日本国内でヒアリによる大規模な被害や定着の報告はほとんど見られません。これは、単なる偶然ではありません。
クロオオアリがヒアリの「盾」に?
興味深いのは、日本の在来種「クロオオアリ」がヒアリの拡散を抑えている可能性があるという研究結果です。
奈良女子大学の研究チームによれば、クロオオアリの体表から発せられるフェロモンには、ヒアリや他の外来アリに対する忌避効果があるとのこと。
このフェロモンは、ヒアリにとって「この場所にはすでに強い敵がいる」と認識させる働きを持つ可能性があり、それによって侵入や定着が自然に抑制されているというのです。
こうした「仮想敵効果」は、日本独自の生態系のバランスがヒアリからの侵略を防いでいる例として、注目されています。
国の対策も功を奏す
もちろん、ヒアリの被害が広がっていないのは自然任せだけではありません。
環境省や地方自治体は、港湾地域における水際対策を徹底し、ヒアリが発見された場合には即時に駆除と封じ込めを実施しています。
さらに、研究機関では簡易DNA検査キットの開発や、生息調査の強化などを行い、侵入の早期発見と被害防止に努めています。
これらの迅速かつ継続的な対応が、日本でのヒアリ定着を防いできたと言えるでしょう。
油断は禁物
とはいえ、ヒアリの脅威が完全に去ったわけではありません。近年も時折、港湾施設やコンテナからヒアリが発見されており、海外からの物流が増える中で、侵入リスクは常に存在しています。
市民レベルでも、「見慣れないアリを見かけたら写真を撮って通報する」などの協力が、今後の被害拡大防止に役立つかもしれません。
まとめ
南米から上陸したヒアリは、日本に深刻な被害をもたらすことなく今に至っています。
その背景には、在来種による“自然の防波堤”と、国の徹底した水際対策の両面があると考えられます。
しかし、輸入依存の現代社会において、外来種の脅威は常に私たちの身近にあることを忘れてはなりません。