健康診断などで「血圧が高いですね」「減塩を心がけましょう」と言われることがあります。
多くの人が「高血圧=悪」「塩分=控えるべきもの」と受け止めがちですが、本当にそれはすべての人に当てはまる真理なのでしょうか?
今回は、高血圧や減塩に関する「一般常識」に対して、少し立ち止まって考えてみたいと思います。
「高血圧」の基準は誰が決めたのか?
現在、日本高血圧学会などのガイドラインでは、診察室血圧が140/90mmHg以上であれば高血圧と定義されます。
しかし、これは統計的・疫学的な「リスク管理」のための目安に過ぎません。
ところが実際には、この基準を超えると「異常値」=「病気」とみなされ、薬の処方や生活指導が行われます。
あたかも一律の「正常値」として扱われることに、違和感を覚える人も多いのではないでしょうか。
年齢と血圧の自然な関係
加齢とともに血管が硬くなるのは自然な現象です。すると、心臓はより強い圧力で血液を送り出さなければ、末端の細胞にまで酸素と栄養を届けることができません。
つまり、ある程度の血圧上昇は身体が適応した結果とも言えるのです。
実際、かつては「年齢+90」という経験則(たとえば70歳なら160mmHg)もありました。
しかし現代医療では、年齢に関係なく、できる限り血圧を下げる方向へと動いています。
その背景には、脳卒中や心筋梗塞のリスクを少しでも下げたいという思惑があります。
とはいえ、血圧を無理に下げすぎることによって起きるふらつきや血流障害も問題です。
とくに高齢者では、そのリスクと利益のバランスを慎重に見極める必要があります。
「95%ルール」の落とし穴
多くの健康基準は、統計的に全体の95%の人が収まる範囲を「正常値」として設定しています。
これは、健康な集団からデータを取り、上位2.5%と下位2.5%を除いた範囲を「基準」とする考え方です。この方法の問題点は明らかです。
どれだけ健康な人を集めても、必ず5%の人は「異常」とされてしまう
増え続ける“患者数”の中に、本来は健康であるべき人たちが含まれている可能性がある
つまり、「正常値」は決して絶対的な真理ではなく、あくまで統計上の目安であり、それをもとにすべての人に一律な指導をすることには無理があるのです。
減塩は誰にとって必要なのか?
確かに、ナトリウムの過剰摂取は高血圧の一因になるとされ、加工食品や外食の多い現代人には減塩が望ましいという考えは理解できます。
しかし、すべての人が等しく「塩を減らせば健康になる」とは限りません。
汗を多くかく人、運動量の多い人、腎機能が正常な人には、ある程度の塩分が必要です。
減塩しすぎると、倦怠感・食欲低下・低ナトリウム血症などを引き起こすこともあります。
しかも、過労や脱水などで病院に行くと、生理食塩水(0.9% NaCl)を点滴で大量に補給されるという事実があります。
これこそが、「塩分は体に必要不可欠な成分」であることの証明とも言えるでしょう。
個別対応こそが本来の医療
私たちは「基準値=絶対的な健康指標」と思い込まされがちです。
しかし、本来医療とは「その人の体にとって何が必要か」を考えるべきものです。
血圧が少し高くても症状がなく、健康的に生活できている人は多くいます。
一方で、血圧が低くてもめまいや疲労感に悩まされている人もいます。
数値だけを見て「あなたは高血圧ですから減塩してください」と一律に判断するのではなく、生活の質や体質、年齢、背景をふまえた対話こそが、ほんとうの健康管理ではないでしょうか。
まとめ
高血圧と減塩の常識には、見直すべき点がいくつもあります。
血圧の基準値は統計的な目安であって、絶対的な健康ラインではない
年齢に応じた血圧上昇は、むしろ自然な適応現象でもある
減塩の必要性は、個人の体質や生活環境によって異なる
医療は「個別の人間」に向き合うべきであり、一律の指導では本質を見失う
私たち自身が「健康とは何か」を問い直し、数値に縛られすぎない知恵と判断力を持つことが、これからますます大切になっていくでしょう。